畳之下新聞

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佐賀県武雄市発の自治体通販が法廷へ

2011年11月に佐賀県武雄市がオープンさせ、その後全国の自治体が参加、全国16自治体が参加しているインターネット通販サイト「FB良品」。

その「FB良品」に関する契約には違法性があるとして、2013年10月1日、武雄市武雄市長は、佐賀地裁に提訴されました。

 

 全国16団体がインターネットを利用して特産品を販売する「FB良品」(現ジャパン・サティスファクション・ギャランティード)を巡り、民間会社2社と連帯債務を負う契約を武雄市が結んでいるのは「法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律」に違反するとして、同市の自営業者の男性(43)が1日、武雄市を相手取り住民訴訟佐賀地裁に提訴した。

毎日新聞 2013年10月02日 地方版

http://mainichi.jp/area/saga/news/20131002ddlk41040332000c.html

 

 

協定書と債務保証 

FB良品を全国の自治体に展開するにあたり、武雄市と民間企業2社は協定を締結、企業連合を立ち上げました。

FB良品に参加する各自治体は、この企業連合と業務委託契約を締結しています。

 

各構成員は協定書に定めた範囲で業務を分担し、それに必要な経費も分配されることになりますが、構成員が途中で企業連合を抜けてしまったり、破産・解散した場合でも、残りの構成員が共同連帯して受託業務を完了させる契約となっています。

「途中で構成員の脱退や破産・解散等があっても、発注した業務は期限内に完了させてもらいますよ」という、税金を使って発注する各自治体から見れば当然の契約でしょう。

企業連合の構成員は、武雄市と民間企業2者ですので、仮に民間企業2社が破産・解散した場合には、武雄市がすべての受託業務を完成させなくてはいけないという契約となっているわけです。

ところが、地方公共団体は、会社その他の法人の債務については、債務保証をすることが認められていません。

第3条 政府又は地方公共団体は、会社その他の法人の債務については、保証契約をすることができない。ただし、財務大臣地方公共団体のする保証契約にあつては、総務大臣)の指定する会社その他の法人の債務については、この限りでない。

法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律

 武雄市が連帯債務を負っているこの協定書はこの法律に違反しており無効であるとして、住民訴訟が提起されたのです。

 

2度の住民監査請求却下と消えた文言 

住民訴訟を提起するためには、訴訟を行う前に住民監査請求が行われていることが前提です。

今回も、武雄市に対して2度の住民監査請求が行われていますが、すべて却下されています。

武雄市の監査委員によると、却下の理由は、

地方自治法242条1項によれば、住民監査請求の対象は「財務会計上の行為又は財務に関する怠る事実」であるが、今回の請求はそれにあたらないため要件を満たしていない

 というものです。

第二百四十二条  普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体のこうむつた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。

地方自治法

 

しかし、武雄市は協定書の締結時点で債務負担行為に当たるとの認識を有していたことがわかっています。

第二百十四条  歳出予算の金額、継続費の総額又は繰越明許費の金額の範囲内におけるものを除くほか、普通地方公共団体が債務を負担する行為をするには、予算で債務負担行為として定めておかなければならない。 地方自治法

情報公開請求で開示された、協定書締結時の起案用紙には、「本協定により発生する市の負担(割合)等については早急に決定する必要があると思われる」とのメモがあったのです。

 

また、1回目の住民監査請求が行われたのは2013年8月23日ですが、その直後の9月2日には、問題の協定書が締結し直されていることがわかりました。

2013年9月*1にF&Bホールディングス企業連合の構成員が変更されたことから、協定書も改定されましたが、この協定書改定の際に、今回住民訴訟の対象となっている部分も、市長の議会答弁によれば*2「誤解を招く」という理由ですべて削除されていたのです。

法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律。これは昭和21年にできた古い法律ではあるんですけども、武雄市が債務保証をしてるんじゃないかと。これは違法行為・脱法行為じゃないかっていう事をご指摘をたまわっていますので、運営協議会の中でも整理をしましたので、元々FB 良品の協議会の中でも、この規定は入れております。債務保証については、入れておるんですけれども、(中略) 確かに、FB 良品ホールディングのときは債務保証には入っておったんですけれども、今回の9月になってからの契約、SG の協定書には、そういった誤解を招くような文言は削除しております。これは念には念を入れてであります。今まで、脱法行為とか違法行為をしていたのではなくて、(中略) 私どもの誤解があってはいけないので、丁寧に説明する意味も含めて、今回債務保証の文言というのは切り離して削除をしている次第であります。

2013年9月9日 武雄市議会 一般質問 での武雄市長答弁 18分5秒より
http://www.ustream.tv/recorded/38489915

  

住民訴訟の理想と現実 

こうして、武雄市発の通販サイト「FB良品」は、法廷へ持ち込まれることとなりました。

 

当事者である武雄市長は、自身のFacebookで以下のようにコメントしています。

法的にもOK、具体的な損失はゼロ、ましてや、念のため規約も改定しているのにかかわらず、過去の規約で、住民訴訟を出してくる。しかも、原告は印紙代だけで費用負担ゼロ。売名行為なんでしょうね。住民訴訟ってこんなのでいいのかって思いますが、市民の貴重な憲法上の権利。司法の場で、戦っていきます。応援よろしくお願いします。
http://archive.is/3rNi8

 

参加自治体の多くは本件のコメントをしていない中、FB良品に古くから参加している福岡県大刀洗町の係長は、武雄市長のFacebookに以下のようにコメント(現在は削除)しています。

こういう嫌がらせにたいがい辟易しています。住民の税で賄われている私たちの大切な執務時間。住民の皆様の幸せを創造するためにもっと有効に使いたいです。
http://archive.is/3rNi8

 

住民訴訟は、自己の個人的利益のためではないのはもちろん、地方公共団体そのものの利益のためにある制度でもありません。

地方公共団体の構成員である住民全体の利益を保障するために法律によつて特別に認められた参政権の一種であり、その訴訟の原告は、自己の個人的利益のためや地方公共団体そのものの利益のためにではなく、専ら原告を含む住民全体の利益のために、いわば公益の代表者として地方財務行政の適正化を主張するものである
最判昭和53年3月30日

住民訴訟は、行政事件訴訟制度の中で、比較的良く機能している仕組みであると評価されており、近年では、財政支出行為にとどまらない、政策判断の手段としても機能しています。

しかし、自治体首長や職員にとっての住民訴訟は、嫌がらせや売名行為のためのものとして認識されていることが明言された事は、心境として予測できる範囲だと思いますが、残念です。

 

 

 

提訴から2日後の2013年10月3日に、福岡市内のホテルで行われた講演会。

300人の観衆を前に、壇上に立つ佐賀県武雄市の樋渡市長は「FB良品」の映像をスクリーンに映し出しながら、こうコメントしました。

「自治体が通販はじめました」

「コレがバカ売れ」

ねずみ講です」

  

裁判がどのような結果となるのか、そして、地方自治体と民間との協働事業にどのような影響を及ぼすのか。見守りたいと思います。 

 

2014年3月14日に住民訴訟の判決が言い渡されました

 

*1:当初10月と記載していましたが、正しくは、初回の監査請求が却下された日と同じ9月2日でしたので訂正しました。

*2:議会答弁の内容を追記しました。