畳之下新聞

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鎌倉市運営の自治体通販サイト事業中止 武雄市から回答得られず 不透明な幕引きへ

 2013年12月19日、鎌倉市長は、武雄市などが運営する自治体通販サイトの開設を断念することを決定しました。

新聞各紙によると、鎌倉市武雄市に対して行った問い合わせに回答がなく、開設を断念したと報じられています。

 

鎌倉市は19日、佐賀県武雄市が入る企業連合に業務委託していたインターネット通信販売事業のサイト開設を断念した。市議会は委託先の妥当性を巡って紛糾しており、松尾崇市長は「市政運営が滞る。これ以上時間をかけられない」と理由を述べた。一方、市議会が求めていた企業連合の出資比率などの資料は未提出のままで、不透明な幕引きとなった。同様の事業を進める全国17自治体にも影響を与えそうだ。

 

市は「武雄市から回答がない」などとして資料提出を先延ばしし、10月30日に事業延期を報告したが、19日になっても提出できなかった。

 

鎌倉市:ネット通販断念 委託先巡り市議会紛糾 不透明な幕引きに /神奈川-毎日新聞

http://mainichi.jp/area/kanagawa/news/20131220ddlk14040144000c.html

 

神奈川県鎌倉市は19日、市内の名産品を扱う通信販売サイトの開設を断念した。市議会からサイトの委託先である任意組合の運営が不透明との指摘を受けたためで、松尾崇市長は「(契約先の妥当性を説明することについて)これ以上時間をかけることができない」と述べた。

 

鎌倉市が経営実態の把握に向けて企業連合側に出資比率について問い合わせていたが、回答が得られなかった。

神奈川・鎌倉市が通販サイト開設断念 委託業者の運営不透明 - MSN産経ニュース

http://sankei.jp.msn.com/region/news/131219/kng13121922260007-n1.htm

 

鎌倉市の松尾崇市長は十九日、開設が延期されたままになっている地元名産品の通信販売サイト事業の中止を決め、市議会総務委員会に報告した。着手後に事業を途中で中止するのは、極めて異例。委託契約の妥当性が疑問視されていた中での中止で今後、事業を進めた松尾市長らの責任が問われそうだ。

 

自治体間で支払う義務がない消費税をめぐり、総務委で委託契約の疑問点が指摘されて紛糾。十月三十一日に予定していたサイト開設を延期していた。契約では、消費税約三十四万円の分配が明確になっておらず、総務委で中沢克之委員長が、武雄市が消費税を受け取らない根拠となる企業連合への出資比率、分配比率についての資料を要求。市は武雄市に照会したが、回答がないまま中止となった。

 

東京新聞:鎌倉市「通販サイト」開設前に中止:神奈川(TOKYO Web)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/20131220/CK2013122002000160.html

 

鎌倉市は19日、地元名産品などを販売する自治体運営型通販サイトの開設を断念することを決めた。サイト運営の委託先をめぐり市議会総務常任委員会が「運営団体に不透明な点がある」などと追及していた。

 

通販サイトの開設断念、市長「市政滞ると判断」/鎌倉 - 神奈川新聞社

http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1312190020/ 

 

鎌倉市 自治体通販サイト これまでの経過

鎌倉市では、中止に至るまで、以下の経過をたどっています。

詳しい経緯は、当blogの過去のエントリへリンクしてあります。

 

6月 国の緊急雇用創出事業臨時特例交付金を活用した鎌倉市通販サイト事業の予算が成立
9月9日

鎌倉市がF&Bホールディングス企業連合と契約締結 サイトオープンは10月31日

10月1日 F&Bホールディングス企業連合の契約に関し、武雄市と武雄市長が提訴される
10月9日 武雄市の訴訟を受け、鎌倉市議会総務常任委員会鎌倉市側へ説明を申し入れ
10月18日 鎌倉市議会総務常任委員会において、厚労省の通達を根拠に「委託費のうち武雄市に分配される金額については消費税分を減額した上で契約する必要が有る」ことが指摘される
10月21日

鎌倉市は、武雄市とF&Bホールディングス企業連合の代表構成員に対し、「減額すべき消費税額」算定の元となる「武雄市への分配比率」を文書にて照会

日、F&Bホールディングス企業連合の代表構成員から「武雄市への損益分配は予定していない」との文書回答を得る

武雄市からの文書回答は得られず

10月30日

武雄市からの文書回答は得られず

鎌倉市は10月31日の通販サイト開設延期を決定

11月5日 武雄市とF&Bホールディングス企業連合の代表構成員に対し「損益分配を行わないという文書」の提供を文書にて依頼
11月12日

武雄市より、「武雄市は損益分配を受ける予定であり、その比率は現時点で未定である」という回答を得る

同日、F&Bホールディングス企業連合の代表構成員からも「武雄市に損益分配を行うが、その比率は現時点で未定である」という文書回答を得る

11月19日 「減額すべき消費税額」を明らかにできないため、鎌倉市議会総務常任委員会は12月本会議への持ち越しを決定。
12月19日 12月本会議においても、「減額すべき消費税額」を明らかにできない状況が続き、鎌倉市長が事業中止を判断

 

武雄市が回答しなかった質問とは

 

鎌倉市議会が鎌倉市に対して確認を求めているのは、以下の点であり、10月18日以降変わっていません。

 

鎌倉市厚生労働省交付金を利用した「緊急雇用基金事業」として通販サイトを開設するが、2012年3月に厚生労働省から各都道府県へ通知された内容*1によると、緊急雇用基金事業の受託者が消費税の免税事業者である場合には、消費税分を支払うことは不適切な支出であるとされている。

F&Bホールディングス企業連合には、消費税を申告しない事業者*2である武雄市が含まれているため、その分の消費税を減額して契約していなければ、「鎌倉市として適切な契約」を行ってるとはいえない。

そのため、今回F&Bホールディングス企業連合に支払う契約金額のうち、武雄市に分配される金額(比率)を明らかにし、その金額にかかる消費税額を確認せよ。

 

これを受けた鎌倉市が、武雄市とF&Bホールディングス企業連合に確認していたのは、

鎌倉市が支払う委託費約720万円(全額国の補助)のうち、武雄市に入るのはいくらなのか」

 

というシンプルなものです。

 

しかし、武雄市とF&Bホールディングス企業連合から、この質問への回答は得られず、事業は中止となったのです。

 

なぜ回答しなかったのか

 武雄市長は自身のblogで以下のように述べています。

 

そもそも今回鎌倉市議から問われていたことは、JAPANsg事業の契約先(武雄市も加入しているF&Bホールディングス企業連合)が、法的に契約先として正当かどうか、という話。正当かどうかも何も、契約して、もう17団体仕事していて、実態も結果も出しているのですが(苦笑)、まぁ、それはそれとして、この市議とTwitterのいつもの皆さんの言い分は、なにやら「組合として出資割合と(利益の)配分割合」が決まっていないのは、不当だ、幽霊組織だ、というもの。

 

不当だも何も、我々企業連合のやり方の適法性は、複数の弁護士に確認済み、正しい税務処理も税理士に確認済み。幽霊組織でも何でもない。出資といってもお金がやり取りされるものではないから、それぞれの労務の割合がどれだけか、ってやってみないと分からない。分からないので、だいたい軌道にのってきた今年末を目処に、出資比率を算出することにしてます。

 

この辺は、別に組合を設立した時点で、決めておかなくても違法でないことは、顧問弁護士、複数の弁護士に確認済み。会計上の整合性も、何年もほったらかしは流石にまずいけども、今年くらいに決まるなら、適性に処理すれば問題ないと、これまた税理士さんにも確認済み。

 

鎌倉市議会から(というか、この中澤市議が委員長の委員会からは)いろいろ指摘や質問を受けて、上記のような内容を、都度経過も結論も随時鎌倉市にもお伝えしてきました。つまり、鎌倉市議会からの『「組合として出資割合と(利益の)配分割合」が決まっていないのは、不当だ、出資割合と(利益の)配分割合を出せ』という質問に対して、『組合として出資割合と(利益の)配分割合」が決まっていないのは、不当ではなく適法であるため、その配分割合を今出す必要はない。適切な時期に提出し、適切に会計処理も行う』という回答をしてきた我々に対して(これ、僕ちゃんと、鎌倉市議会の質問にお答えしてますよね?)、この中澤市議は「自分が求める答えでは無い。求めてるのは出資割合と(利益の)配分割合だ」と、聞く耳も持たずに、委員会をストップさせ、あろうことか、議会そのものもストップさせ続けていたらしい。

 

松尾鎌倉市長、ご苦労様です!

http://hiwa1118.exblog.jp/20127816/

  

武雄市長としては、鎌倉市から回答を求められているのは、

「組合としての出資割合と(利益の)配分割合であり、ひいては法的に契約先として正当かどうかである」

という認識のようです。

 

このように、なぜか質問に対する認識が大きく乖離していることが分かります。 

 

武雄市長のblogにある通り、民法上の組合の出資割合や損益分配が決まっていなくても、法的にはなんら問題ありません*3し、その場合の取り扱いも定められています。

 

鎌倉市議会は、「鎌倉市の行った契約事務が適正に行われたのか」を確認しているに過ぎず、それを受けた鎌倉市は「適正な契約事務に必要な情報の提供」を武雄市に対して求めているにすぎないのです。

 

しかし、これに武雄市と企業連合は過剰とも言える反応を示し、法的にも問題なく、税理士や弁護士にも確認済みであるとして、質問事項への回答をしませんでした。

 

  • 鎌倉市にとって適正な契約事務」に必要な情報がまともに提示できない委託先との契約をすべきではない。
  • 鎌倉市にとって適正な契約事務」が行われていない事業は、中止するべきである。

これまでの経緯を見れば、これらは当然の主張であると思えます。

 

武雄市長は自身のblogで鎌倉市の中止判断について、このように述べています。

 

これ、かなり問題ですよ。他所さまの議会運営そのものを批判するのは憚られるけども、この市議がやっていることは、司法判断の域ですよ、信じられない。鎌倉市議会は無法地帯って言われても仕方が無い(中沢さん以外の方は、まともだと思います。)。もしその市議が僕らと違う法的な見解を持っているとして(彼が何の法的根拠でそう言ってるのかも重要ですが。ちなみに司法の資格が無い人が法的根拠を自らの判断として語ることは自由なんですが、何ら法的拘束性を持たないのは大学の教養課程を経なくても分かる。)、明確にNGでないなら、司法でしか答えは決まらないはずなのに、事業ストップという見解を出し続けたのは、とても議会の「王道」とは思えませんね。

松尾鎌倉市長、ご苦労様です!

http://hiwa1118.exblog.jp/20127816/

 

なぜ、鎌倉市からのシンプルな問いに対して、シンプルに答えなかったのでしょうか?

なぜ、わざわざ鎌倉市議会の運営や鎌倉市の議員を名指しで批判しなくてはいけないのでしょうか?

なぜ、最後まで出資比率と損益分配比率は明らかにされなかったのでしょうか?

 

追記

反応いただいた点を補足します。

課税取引だから消費税を払うのが適切なんじゃね

仰るとおり、取引は課税取引なので、消費税込みで支払うのが適切なのです。なので、税理士に見解を求めた場合、消費税分を払うのが適切だと判断すると思います。

ですが、「国の交付金を使う場合には免税事業者に消費税込みで払うのはダメ」というのが会計検査院の見解*4らしく、厚労省もそれを受けて消費税分は減額せよと通知しているので、消費税分には交付金を使えないねという話になっています。

このへんは、鎌倉市側にも武雄市側にも、もっとやり方があるような気がするのですが、2ヶ月掛けても結論は出せず、事業中止という幕切れになってしまいました。

出資比率とか分配比率とか関係なくね

消費税法基本通達では、共同事業における資産の譲渡等又は課税仕入れ等については、当該共同事業の構成員が、当該共同事業の持分の割合又は利益の分配割合に対応する部分につき、それぞれ資産の譲渡等又は課税仕入れ等を行ったことになるとされています。 

そのため、鎌倉市が「減額すべき消費税額」を求めるためには、「共同事業の持ち分の割合(出資比率)」か、「利益の分配割合」が必要になってくるのです。

(品性は別として)そんなに問題があると思えないんだけど

そうですね。武雄市と企業連合が、出資比率か損益分配比率(もちろん予定の率)を回答すればそれで済んだ話です。

なんで回答しなかったんでしょうね。

 

*1:厚生労働省職業安定局 職地発0328第1号「雇用創出基金事業における消費税の取扱いについて」

*2:消費税法第60条4項 国、地方公共団体等に対する特例

*3:ただし、法人税通達では実際に分配していなくても一定期間ごとに損益分配したものとして取り扱わなければならないとされています。

*4:http://report.jbaudit.go.jp/org/h23/2011-h23-0341-0.htm