親戚のオジサンが自殺した。
突然会社をやめて、退職金を元手にフランチャイズに加盟して、自分の店を開いたのが去年の年末のことだ。
これからは自分の腕で稼いでいくと話したオジサンの笑顔は誇らしげだった。
でも、そんなオジサンの笑顔も半年程だった。忙しそうに見えたが、客は思ったほど集まっておらず、赤字続きで貯金は減っていくばかり。
開業資金は自宅を担保に銀行から借りたと聞いていたが、半年程で返済が滞ったようだ。
そして突然の自殺、オジサンは自分の店で死んでいた。
(この記事は 売れるとみんなが困る 謎の通販サイトがあった の続きなので、まだ読んでない人は こちらからどうぞ)
身近にそんな話を聞いたことはありませんか?
FC - フランチャイズは日本で多くの業態で採用されているビジネスモデルです。
中小企業庁によると、FCには以下の特徴があるとしています。
フランチャイズ・システムは、加盟者にとっては、チェーン本部から優れた商品や経営ノウハウの提供を受け、商標、商号の使用が可能となるなど個人経営では得られない様々な情報やシステム、ノウハウ等を享受することができる一方、本部にとっては、加盟店の資金負担により出店時の投資コストの削減や、急速な多店舗展開が可能となるなどのメリットを有している、といわれるシステムです。
親戚のオジサンは事業がうまくいかず、金銭面で苦労していたようですが、実際にFCに加盟して事業を始めるには、どんな費用がかかるのでしょうか。
業種やFC本部によって異なりますが、概ね以下の様な費用を加盟店からFC本部に支払う必要があります。
開業時には、加盟金や保証金、研修費用などを支払う必要があります。
店舗の工事や内装、設計費や備品類なども、システム料やコンサルティング料としてFC本部に支払うケースが多いようです。
無事開業してからは、毎月、売上や面積、席数などに応じた費用 - いわゆるロイヤリティを支払う必要があります。
また、売上代金の管理までFC本部が行い、売上から仕入やロイヤリティを差し引いた金額が、毎月加盟店に支払われる契約もあります。
個人で1から事業を立ち上げるのは簡単なことではありません。しかし、FCに加盟すれば、費用はかかるものの、有名なブランドや優れた商品、経営ノウハウをバックに、自分の事業が始められるのです。
FCは、いつかは起業家として事業を拡大していきたいと考えている人には魅力的な仕組みです。
そんな気持ちを煽るように、FC経営者を募集する広告には「あなたも年収1千万」「未経験でも安心」「小資本で経営者に」などの文字が踊っています。
では、オジサンはなぜ自殺したのでしょう。
良いことばかりに見えるFCですが、問題点も指摘されています。
代表的なものとして、FC本部が示した売上予測、経費予測と実態がかけ離れていて、トラブルになるケースがあります。
チェーン本部が加盟店を募集する際に提示する「売上予測」、「経費予測」等と、加盟後の経営実態が異なり、トラブルが生じるケースが見られます。これらを示す本部からはその算出根拠を明確に説明してもらうことが大事です。さらに既存加盟店から話を聞いたり、同業他社と比較したりするなどして算出根拠の妥当性を検討するようにしましょう。
また、自らも出店する近隣地域の状況を調査したり、専門家に相談したり、事前調査することが望まれます。
FCの示す夢の様な売上予測を信じて加盟しても、客が来ない、商品が売れない、売上が上がらない というわけです。
もちろん商売ですから、完璧な予測をすることは不可能でしょうし、加盟店の営業努力も必要でしょう。
しかし、これだけ売れると言われた商品が全く売れない、あると言われたマーケットが机上の空論である、狭いマーケットにすでに多数の競合が存在したなど、そもそも事業を成功させる難易度が極めて高いものもあるようです。
加盟金集めや機材の販売をするために、新規加盟店を大量に募集しているFC本部もあると指摘されています。
加盟店は、事業の成功と自分や家族の生活が直結しています。
まとまった開業資金を払い、事業を始めたわけですから、見込みが薄くてもなんとかして事業を立ち上げようと努力するでしょう。しかし売上は上がりません。
FC本部は契約通りのロイヤリティを請求してきますし、いまさらやめたからと言って多額の開業資金が戻ってくるわけでもありません。
こうして、FC本部との間でトラブルになり、最終的には、高い授業料だったと自分を無理やり納得させて辞めていくのです。
とある村は今
「売れるとみんなが困る 謎の通販サイト」に話を戻します。
とある村 が、初期費用200万円と毎月15万円を支払って「売れるとみんなが困る 謎の通販サイト」に加盟してから半年が過ぎました。
雑誌や新聞にもひと通り掲載され、近隣の自治体も視察にやってきました。
村の商工課職員も、いまや通販サイトの店長としての顔を持ちます。
といっても、商品を梱包して発送したり、お客からのクレームを受けたりするわけではないですし、これといったネット通販のノウハウがあるわけでもありません。
そもそも、商品が全く売れていません。そしてなぜ売れないのかは職員にもわかりません。
通販サイトへの参加を独断で決めた村長も、最初の半年程は「年間1億」「地域所得向上」「アジア進出」と声高らかでしたが、全く売れない現状を見て、最近は口にもしなくなりました。
話を持ち込んできた若手議員も、議会で突っ込まれたくないのか、最近は会うこともなくなりました。
とはいえ、全く売れていないという事実は、職員にしかわからないので、手を打つ必要も特にありません。
通販サイトの契約は、みんなが忘れたタイミングで、静かにやめればいいのです。毎月15万円の支出が減る話ですから、議会もすんなり通るはずです。
謎の通販サイトの正体
「売れるとみんなが困る 謎の通販サイト」を「自治体をターゲットにしたFCビジネス」として捉えると多くの共通点が見えてきます。
- 通販のノウハウがない自治体でも、初期費用200万円と毎月の15万円を支払うことで、全国自治体の共通ブランドの元で商品を販売できる。
- 参加自治体を増やせば増やすほど、通販サイト運営会社には、初期費用200万円と毎月15万円が入ってくる。
このように、FCビジネスと自治体向けFCビジネスとは、ビジネスモデル上多くの共通点がありますが、1つだけ大きな違いがあります。
FCの場合、加盟店は自分や家族の生活がかかっていますから、売上が上がらない状況を打破しようと様々な努力をし、それがうまく行かなければ辞めていきます。場合によっては自己破産や離婚なんてこともありでしょう。
FC本部も、辞めていく加盟店分を補うだけの新しい加盟店を増やし続けなくてはいけません。
しかし、「売れるとみんなが困る 謎の通販サイト」はどうでしょう。
売上が上がらなくても、誰も何の手を打たず、参加自治体は通販サイト運営会社に毎月費用を払い続けていきます。
通販サイト運営会社は、何の価値も生み出していないにもかかわらず、全国の自治体から延々と税金を集め続けられる のです。
なぜか。
それは、その費用が税金から出ているからです。
もちろん誰かが死ぬこともありえません。