畳之下新聞

畳の下に敷いてある新聞には、あなたの心を惹きつける言葉が書かれています。

四條畷市長のnote「なぜ10万円給付に時間がかかるのか」が怪しいので検証してみた

市役所窓口の大混雑や、マイナポータルのダウンなど、特別定額給付金(いわゆる10万円給付)は混乱を極めています。

新型コロナウイルス感染拡大防止に留意しつつ、簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行う」とされている特別定額給付金ですが、まだ申請書も届いていない人がいると思えば、すでに10万円が振り込まれた人もいるなど、自治体によって、大きな差が出てきています。



そんな中、大阪府四條畷市長が、「なぜ10万円給付に時間がかかるのか」について説明したnoteが、話題になっています。

note.com

詳細は四條畷市長のnoteを読んでいただくとして、なぜ(四條畷市が)10万円給付に時間がかかるのかについて、主に以下の理由が述べられています。

  • 四條畷市を含めた多くの自治体は「全体最適型」を採用しており、住民全体に正確に給付することを目指しているため、初動に時間がかかる。
  • 報道されているような対応が速い自治体は「一部最速型」であり、人海戦術で対応している。そのため、住民全体に支給し終わるまでに時間がかかる上に、ミスも起こりやすく、作業中の「密」も発生しやすい。

要するに「速い自治体もあると思うけど、四條畷市は時間かけてちゃんとやってるんですよ。」ということのようです。

どうしても、マイナポータルからの電子申請が話題になっていますが、ここでは主流となるであろう郵送による申請にフォーカスして検証してみます。

「申請書の統一様式の調整」とはなにか

「一部最速型」自治体と、「全体最適型」の四條畷市とでは「申請書の統一様式の調整」プロセスに差があると説明しています。

全体最適型では、システム事業者が全国の自治体において適用できる統一様式を調整・作成することになるため、様式が固まるまでに大きく時間がかかります。

この「申請書の統一様式の調整」とは、システム事業者が全国統一様式を調整して作成する時間の事を指しているようです。

今回の特別定額給付金では、総務省から申請書のひな型が提示されています。

名前の横にうっかりチェックをつけると振り込まれないというアレですね。

作りの良しあしは別として、すでにひな形があるのに「全国の自治体において適用できる統一様式を調整・作成する」必要があり、しかも時間がかかるという説明は不思議ですよね。

実際、対応の速い自治体は、総務省のひな型を使って、受付を行っているのですから。

人口5万人規模の自治体が抱えるIT投資のジレンマ

四條畷市長は、「申請書の統一様式の調整」と表現していますが、外部委託している行政情報システムが特別定額給付金に対応するまで動けない というのが現実なのでしょう。

住民基本台帳システムや税務システムなどの行政情報システムは、各自治体ごとにそれぞれ別々のシステムが稼働していて、全国統一ではありません。

四條畷市のような人口5万人規模の自治体の場合、複雑な行政情報システムを維持する体制を確保するのは難しく、コストダウン効果も期待できることから、クラウド型の行政情報システムを採用するケースが増えています。

今回のような、全国一律でタイトなスケジュールの事務が発生した場合でも、スピーディーに対応できるのは、クラウド型の行政情報システムを採用するメリットだと言えるでしょう。

実際、システム事業者から四條畷市に申請書が提示されたのは、5月11日とのことで、かなりスピーディーに対応している印象を受けます。

その一方で、自治体独自の仕様を共通のクラウド型行政情報システムに反映させることは難しく、スケジュールもシステムベンダーの対応に依存してしまいます。

結果的に、システムに自治体の業務を合わせるという対応になってしまいます。

今回の特別定額給付金対応についても、四條畷市にシステムに関する主導権がない様子を読み取ることができます。

四條畷市長の説明は本当なのか

特別定額給付金は、すべての自治体が同じゴールを目指して、一斉に対応策を検討しています。

自治体の担当者や関連するシステムベンダーは、困っている住民に一日でも早く振り込みできる方法を、知恵を絞って考えているはずです。

四條畷市長の説明では、特別定額給付金の事務に関する全体像と課題が網羅的にまとめられています。

その一方で、四條畷市の選択した「全体最適型」が妥当であることを説明するために、他の自治体が選択した手法が必要以上に否定されています。

f:id:nukalumix:20200617024307j:plain

そもそも、「一部最速型」自治体であっても、すべてを人海戦術で対応するのは現実的ではないため、システム対応が必要なことは変わりありません。

「一部最速型」の自治体は、少しでも速く給付金を受け取りたい住民のために、システム対応までの「つなぎ」の手段として、例外的に手書き申請書の配布を行っています。

政治家である市長の立場としては「よそより遅い」と言われるのが嫌なのはわかりますが、先行している自治体の手法を否定したところで、速く振り込めるわけではありません。

実際、多くの自治体は粛々と対応をすすめていて、総務省の発表によると、約7割にあたる全国1,218自治体がすでに申請書の郵送を開始しており、そのうち280の自治体はすでに給付(振込)も開始しています。

なお、四條畷市民の方に特別定額給付金が振り込まれるのは、オンライン申請でも郵送申請でも最短で5月末です。

急ぐ場合は緊急小口資金を利用するよう案内しています。

この対応が速いか遅いかは、四條畷市民の方が評価すべきでしょう。

(追記) 四條畷市で書類の二重発送が判明

全体最適型」は、受付が遅くなっても、手作業によるミスを最小化できると説明していましたが、四條畷市では、発送前の確認不足により、書類の二重発送が発生してしまいました。

www.city.shijonawate.lg.jp

一定割合でミスが発生するのは仕方がないのことです。

四條畷市長の不必要なアピールのせいで、ハードルがあげられてしまった職員や委託先の方が気の毒でなりません。