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「きわめて不快で不見識」特別定額給付金 千葉バトル から見えてくる市長の選び方

千葉市長の投稿は「極めて不快で不見識」

千葉県市川市の村越市長が、特別定額給付金に関する千葉市熊谷市長のブログに対し、「きわめて不快で不見識」と述べたとして、毎日新聞が報じています。

mainichi.jp

千葉県市川市村越祐民市長は15日の市議会6月定例会代表質問で、千葉市熊谷俊人市長のブログなどでの投稿について「極めて不快で不見識」と述べた。投稿では、市川市などが国の特別定額給付金の申請で採用した「ダウンロード方式」の給付の遅れを指摘していた
千葉市長の投稿は「極めて不快で不見識」 市川市長、給付金の支給遅れ巡り - 毎日新聞2020年6月16日 15時03分

10万円の特別定額給付金をめぐり、千葉市市川市で勃発したバトルを紐解いてみましょう。

市川市の「ダウンロード方式」とは

市川市は、特別定額給付金の申請書をいち早くサイトにアップし、市民が各自ダウンロードして記入した上で提出する、いわゆるダウンロード方式を採用、全国で最も早い4月27日から受付を開始したことが広く報じられ、大きな話題となりました。

www.iza.ne.jp

市川市以外でも、戸田市高知市那覇市など、全国各地の自治体が、全世帯への申請書郵送までのつなぎとして、ダウンロード方式を採用しました。

千葉市長が「ダウンロード方式」を否定

市川市と同じやりかたはできないのか」という市民の声が全国の自治体に寄せられたのでしょう。

千葉市熊谷市長は自身のブログで「全国の自治体が責められた」として、ダウンロード方式を否定しました。

www.kumagai-chiba.jp

手書きで申請を受け付ける自治体をマスコミが報道したために、「なぜうちではあの手法ができないんだ」と千葉市を始め、全国の自治体が責められました。
その自治体は大量の手書き申請が殺到し、事務が混乱、申請書を送って1ヶ月経ってようやく給付できるという状況に陥っています。これから郵送の申請書を発送し、その処理も行うことになりますので、さらに負荷がかかることでしょう。私達はこの事態を想像し、手法として採用しませんでした。
千葉市は郵送分については到着後、2週間程度で給付することができると見込んでおり、おそらく全世帯への給付完了時期については人口の多い千葉市の方がその都市より早くなる可能性があります。
私はその都市を批判したいわけではありません。1日も早く給付金を必要とする人に届けるために特殊な方法を覚悟をもって実施した思いは肯定されるべきです。
しかし、事務方の思いとは裏腹に「今すぐ必要な人だけにして。多くなると全体給付が遅れます」という但し書きが殆どマスコミで報道されず、結果的に想定を超える手書き申請書が殺到する結果となりました。
このようなことが起きないよう平時に仕組みを作ることの重要性、緊急時に安易な手法に飛びつかない、ということを教訓として社会が次の世代に引き継いでいくことが重要です。

熊谷市長は、ダウンロード方式を採用した自治体は事務が混乱して給付が遅くなっていると指摘したうえで、千葉市はそうなることを事前に想定できていたため採用しなかったとしています。

市川市を名指ししてはいないものの、安易な方法に飛びついた結果、市民への給付が遅れるだけではなく、ほかの自治体が責められる結果になったと、ダウンロード方式を採用した自治体を批判したのです。

市川市議会で千葉市長のブログが議題に

冒頭の毎日新聞に掲載された市川市長のコメントは、6月15日に市川市議会で行われた石原よしのり議員(無所属の会の一般質問に対する答弁です。

石原よしのり議員は、千葉市長のブログを読み上げた上で「パフォーマンス的な先行事例を発表すべきではなかったのではないか」として、市川市長に見解を質しました。

それに対して、市川市長はこのように答弁します。

市川市長)
当該千葉市長の発言に関して、私は承知しておりませんが、千葉市長がわたくしどもの施策に関して、何か批判的なコメントをされるなどというのは、きわめて不快で不見識なことだと思います。
千葉市政に関して何か質疑をされたいのであれば、ぜひ千葉市議会でやっていただきたいとお願い申し上げます。
youtu.be

この答弁が、毎日新聞の記事になったわけですが、首長が他自治体の施策を批判するのが不見識だというのはその通りのように思います。

そもそも千葉市も給付が遅い

特別定額給付金は国の事業ですが、実際の事務は地方自治体が行っています。

世帯数や情報システム上の制約など、自治体によって対応方針が大きくことなり、結果として給付までの日数に大きな差がでています。

では、千葉市の対応状況はどうなっているのでしょうか。

千葉市の給付状況

44万6千世帯
最速給付日 5月28日

オンライン 5月15日受付開始 5月28日給付開始
郵送申請 5月29日発送 6月19日給付開始


千葉市の給付は、5月15日から開始したオンライン申請が最も早く、5月28日から振込が開始されています。

郵送申請書は5月29日に発送されており、6月19日から給付が開始される予定になっていますが、混雑のため申請受理後2週間~1か月かかる見込と発表されています。
千葉市長は2週間程度で給付できるとしていましたが、見込みが甘かったようです。

市川市千葉市より2週間早く給付を開始

遅いと指摘されている、市川市の対応状況はどうなっているのでしょうか。

市川市の給付状況

24万9千世帯
最速給付日 5月15日

ダウンロード方式 4月27日受付開始 5月15日給付開始
オンライン 5月1日受付開始 5月28日給付開始
郵送申請 5月29日発送 6月19日給付開始

市川市の給付は、ダウンロード方式が最も早く、5月15日から振込開始されています。

オンライン申請は5月1日から開始し、5月28日に給付を開始、郵送申請書は5月29日に発送され、6月19日から給付が開始される予定です。

偶然にも、オンライン申請の場合の給付開始日と郵送申請の給付開始日は、千葉市市川市は同じ日になっており、両市の対応スピードに差はありませんでした。

結果として、ダウンロード方式を採用した分、市川市千葉市よりも約2週間早く給付を開始できたのです。

そうはいっても千葉市市川市も対応は早くない

ここで指摘したいのは、市川市千葉市のどっちの対応が優れているのかということではありません。

むしろ、全国的にみると、千葉市市川市の支給開始日は特に早くありません。

さいたま市(60万世帯)や福岡市(81万世帯)、横浜市(173万世帯)では、千葉市よりも人口が多いにもかかわらず、1週間以上早く郵送申請による給付がすでに始まっています。

(追記)6月16日現在の特別定額給付金の給付率は、市川市が14%、千葉市はわずか3% と報じられています。

首長や議員を選び間違えると受けられる支援が遅れるという現実

特別定額給付金を、市民にアピールするチャンスと勘違いしている首長や議員にだまされてはいけません。

特別定額給付金により、市民に現金を給付するという、新たな市民サービスが生まれました。実際に、給付金を独自に積み増す自治体が出てきています。

自治体によって、全国一律のはずの支援を受けられるまでの期間に差が出てしまう。
これが、日本の現実であることを、私たちは知っておかなくてはいけません。

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