10年前の記事と全く同じイベント告知文
ツタヤ図書館こと、海老名市立図書館のサイトに、2016年の1月3日から10日まで行われる「新春 お正月むかし遊び」というイベントの告知がアップされました。
この告知文が炎上しています。
お正月の遊びといえば、羽根つきや凧あげなどの伝統的な遊びを思い浮かべますが、実際に遊んだことのある方は少ないかもしれません。
しかしそれではもったいない!世代を超えて楽しめ、親から子へ、祖父母から孫へ、伝承する喜びは格別!
遊びを通して知恵や発育を促すものばかりですし、お子さんにとっても素敵な思い出になるでしょう。海老名市立図書館 より引用*1
短い告知文ですが、ちょっと個性のある文体ですね。
実は、この告知文と全く同じ文面が、2006年に書かれたAllAboutの記事に掲載されていることが指摘されています。*2
確かに、お正月の伝統的な遊びを解説する、AllAboutの記事導入部には、以下の文章があります。
お正月の遊びといえば、羽根つきや凧あげなどの伝統的な遊びを思い浮かべますが、実際に遊んだことのある方は少ないかもしれません。
しかしそれではもったいない!世代を超えて楽しめ、親から子へ、祖父母から孫へ、伝承する喜びは格別ですよ。
遊びを通して知恵や発育を促すものばかりですし、お子さんにとっても素敵な思い出になるでしょう。AllAbout 子供に伝えたい~日本のお正月の遊び10選 より引用 http://allabout.co.jp/gm/gc/220639/
海老名市立図書館の告知文とAllAboutの記事を比較してみると、文末の「ですよ。」と「!」の違いしかありません。
その他の部分は、句読点や半角全角含め、一字一句同じ文章です。
なお、このAllAboutの記事は「お正月の遊び」でGoogle検索すると、1ページ目に出てきます。
ウォーターマークに上書きされた文字
さて、この告知には、お正月の遊びに使われる、凧やコマなどのイメージ写真がそえられています。
そのイメージ写真ですが、不自然な場所に「この写真はイメージです」という文字が入っています。
海老名市立図書館 より引用*3
文字の部分をよく見ると、文字の下にウォーターマーク(すかし)が確認できます。
どうやら、ウォーターマークを隠す目的で「この写真はイメージです」の文字を不思議な場所に打った*4ようです。
文字が打たれる前の画像と比較すると、ウォータマークの上に文字が打たれた事がよくわかります。
なお、この画像は「お正月の遊び」でGoogle画像検索すると、1ページ目に出てきます。

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海老名市立図書館は、文章も画像も、ネットで検索したものをコピペして、今回のイベント告知を完成させたようです。
正直よくある話だが
AllAboutの文章で検索すると、ほかにも無断盗用が疑われるサイトが見つかります。また、画像の作成元も画像の無断盗用に悩まされているようで、無断盗用は一切許可しないと記載されています。
今回の件も、正直なところよくありそうな話だなとは思うのですが、問題は公立図書館がこのような行為を行っていることでしょう。
海老名市立図書館が、インターネットの文章や画像をカジュアルに剽窃してしまっているのは、確定申告のPRポスターに出ていたタレントが申告漏れを指摘されたり、国民年金のイメージキャラクターを務めた女優が国民年金を払っていなかったりする事とよく似ています。
確定申告のポスターに出ていたタレントに申告漏れがあったからといって、私達の申告漏れが許されるわけではありませんし、国民年金のイメージキャラクターが国民年金を払っていなかったからといって、私達も国民年金を払わなくていいわけではありません。
著作権に関して十分な注意を払ったうえで、図書館が運営されることは当然のことです。
また多くの人もそうであることを期待し、信頼しています。
今回の件は、海老名市立図書館の指定管理者「CCC・TRC共同事業体」を構成している、カルチュア・コンビニエンス・クラブと、図書館流通センターの、図書館運営に対する基本的な資質を疑うべき出来事でしょう。
ずさんな運営が図書館の変化を遅らせている
ツタヤ図書館第一号である武雄市図書館がオープンし、まもなく3年を迎えます。
図書館の未来像として賞賛されてきたツタヤ図書館ですが、今回のケースの他にも、ずさんな選書による古本の大量購入や、ユニークすぎる分類など、公立図書館の運営とはすこし離れた、目立ちやすい問題点ばかりが注目され続けています。
これらは「ツタヤ図書館が公立図書館として期待されるレベルで運営されていない」事のあらわれでしょう。
しかし実際には、ツタヤ図書館と他の図書館を単純比較してしまい「いままでのように誰も来ない図書館よりマシだ」「だから指定管理はダメだ」「ツタヤ図書館のアレは良いのかダメなのか」という議論が行われているように見えます。
いわば枝葉と言える、ずさんな運営に話題を持って行かれ、「図書館を利用した事実をCCCが保持している事」や「(ずさんな選書の結果)教育委員会や首長が選書に介入している事」のような、図書館のあり方に直結する議論や、「指定管理者決定の経緯が不透明である事」や「前武雄市長が指定管理者のグループ会社で社長に就任している事」のような疑惑に対する検証など、本筋の議論が進んでいません。
ツタヤ図書館は、いまや図書館の変化を遅らせる存在になっているのです。
今年は、ツタヤ図書館をきっかけに、図書館が注目された一年でした。
そろそろ「ツタヤ図書館は図書館ではない」という前提にたって、未来の図書館について考えていく時期なのではないでしょうか。
外からの刺激を待っているだけでは、自分たちが変化することはできません。

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(追記)イベント告知がまるごと削除される
12月27日の深夜2時ごろ、問題の画像が差し替えられました。
その後、12月27日の午前11時ごろ、イベントの告知がまるごと削除されました。
指定管理者であるCCC及びTRCには、イベント予定通りの実施と、状況の説明を期待したいところです。
(さらに追記)お詫び文掲載
12月27日14時ごろ、海老名市立図書館のサイトにお詫び文が掲載されました。
中央図書館からのイベント掲載に関するお詫び
12月24日にホームページに掲載いたしましたイベント情報「新春 お正月むかし遊び」におきまして、
許可無く他社の画像・文面を転用していたことが判明いたしました。
掲載につきましては既に削除しておりますが、関係者の皆様、ご利用者の皆様には
大変ご迷惑をお掛けいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。
今後このような事の無いよう留意してまいります。
海老名市立図書館 より引用*5
お詫び文は掲載されましたが、イベントの告知は削除されたままの状態です。
イベント告知文の修正よりも、お詫び文の掲載を優先するところに、指定管理者であるCCCとTRCの姿勢が現れていると言えるでしょう。
だって、これじゃ、イベントやるのか、やらないのか、わかんないじゃん。*6
マスコミ各社が報道する事態に
公立図書館が写真や文章を盗用するという異常事態に、マスコミ各社も反応、取材結果が続々と報じられました。
Yahoo!ニュース
お話によると、問題が発覚した際に事実確認として法務に連絡を取ったところ、実際に他者様の画像を許可なく使用していたことが判明。
「TSUTAYA図書館」が著作権侵害で炎上? 海老名市立図書館のホームページに問題(追記あり)(篠原修司) - 個人 - Yahoo!ニュース
ハフィントン・ポスト日本版
CCCの広報担当者はハフィントンポスト日本版の取材に対し、盗用の事実を認め、「イベント担当者がネット検索を行い、許可無く他社の掲載画像、掲載文面を転用したことが判明いたしました」と説明した。
【TSUTAYA図書館】海老名市立図書館サイトが他サイトの写真・文章を盗用、謝罪(UPDATE)
ねとらぼ
運営元のCCCに聞いたところ、担当者がイベントに合う画像をネットで検索して、何も考えずに使ってしまったとのこと。転用元の会社には謝罪しているという。
海老名市立図書館、画像・文面の無断使用で謝罪 - ねとらぼ
CCCが調べたところ、図書館のイベント担当者がネットでみつけたものを無断で転用したことが分かったという。
この担当者は「(著作権への)認識が甘かった。こんなことになるとは思わなかった」と話しているという。
公式HPで無断転用 神奈川・海老名の「ツタヤ図書館」:朝日新聞デジタル
海老名市立図書館のお詫び文と、各社の取材で得られたコメントをまとめると、
「担当者個人の著作権への認識が甘く、ネット検索で見つけた写真と文章を、深く考えずにうっかり使ってしまった。こんな騒ぎになるとは思わなかった」
といったところでしょうか。
ウォーターマークを隠した画像を使用したり、問題が指摘された深夜に画像を差し替える対応をとったりした行動とは整合性がないように見えます。
また、海老名市に対して、今回の原因は「ルールが徹底されていなかった事」であると報告していることからも、「画像や文章を盗用することには問題があるという認識はもっていた」と考えたほうが自然でしょう。
【原因】
HPで使用する画像等は、権利購入したもの、またはオリジナルを使用することをルールとしているのもかかわらず、ルールが徹底されていなかったこと。
海老名市議会議員 山口良樹 - 海老名市立図書館ホームページ上における著作物の無断転載についてのご説明http://www.yoshiki-yamaguchi.com/LibralyPattent.pdf
この報告を受け、海老名市は指定管理者に対し、ルールの徹底と、単体でマスコミ対応を行わないよう、厳重注意を行ったそうです。
海老名市の対応は、状況を正しく把握しているとは言いがたい対応ですが、今後、市民の代表である海老名市議会が、海老名市と指定管理者であるCCC・TRC共同事業体に対して、どのような姿勢で対応するのかを静観したいところです。
しかし、この調子では期待できないかもしれませんね。
久しぶりの図書館の問題。CCCによるHPでの著作権侵害の件、教育部にて現在対応中とのことで説明資料等が近々流れてくるとのことです。それにしても、自分たちが今でも良くも悪くも注目されているということがわかっていないのか首をかしげる対応だと思います。
— 志野誠也@市議会議員(脱原発に一票!) (@shinoseiya) 2015, 12月 28
オリンピックのエンブレム問題から学ぶものもあっただろうに。近年のネットの拡散力などをしっかりと考えて、軽く考えるのではなく石橋を叩いて渡る気持ちで取り組んでもらいたいと思います。
— 志野誠也@市議会議員(脱原発に一票!) (@shinoseiya) 2015, 12月 28

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(3月16日追記)海老名市教育委員会は「著作権侵害ではない」と答弁
事件後初めて迎えた海老名市議会。
山口良樹海老名市議が、一連の著作権侵害について、一般質問を行いました。
山口市議の「監督責任のある教育委員会は、(指定管理者が起こした)今回の違法行為の責任は、全く問われないのか」という質問に対し、海老名市教育委員会の岡田教育部長から行われた答弁は、耳を疑うものでした。
著作権の侵害というよりは、無断転載というふうに認識しております。
と言いますのも、これはですね無断転載が発覚したあと直ちに市ホームページの画像を削除したうえ、画像転載元それから文章の転用元に謝罪をして、先方から了解がなされております。
これをもって、直ちに著作権の侵害ではない、侵害にあたっているとは考えておりません。
山口良樹海老名市議 議会リポート19 より引用と書き起こし
この答弁の前後では、岡田教育部長の上司にあたる教育長と部下にあたる教育部次長は、ともに「由々しき自体であり強く再発防止を求めている」と、平謝りに近い答弁をしていますが、岡田教育部長の答弁では本音が出てしまったようです。
今回の著作権侵害事案は、CCCの運営が妥当かどうかという問題であり、市民に直接の影響がある性質のものではないにもかかわらず、海老名市教育委員会は問題を矮小化し対応してしまいました。
今後、市民に直接影響があるようなもっと大きな事案が発生した時には、適切な対応ができるとは考えにくいですね。

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