畳之下新聞

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ATMと印紙税とセブン銀行

セブン銀行は別にすごくない

カード入金時に、入金金額を記載しないレシート*1を発行するのは、各銀行のATMで20年以上前から行われており、セブン銀行だけが行っているわけではありません。

 

 

ここでATMの歴史を振り返ってみます。
ATMの祖先は、キャッシュディスペンサー(CD)と呼ばれる、残高照会と出金しかできないものです。
CDを利用するためには、銀行口座の開設とは別に、キャッシュカードの申し込みが必要でした。

その後ATMが登場、入金もできるようになりましたが、当初は、通帳を使って入金する方式でした。

徐々にキャッシュカードが普及しはじめると、キャッシュカードによる入金のニーズが高まってきましたが、銀行には簡単に導入できない事情がありました。

それが印紙税です。

 

通帳を使った入金では、取引内容は通帳に記載されるため、通帳1通に対して印紙税を払えばすみます。
しかし、カードのみでの入金を受け入れた場合には、レシート1枚1枚に対して印紙税がかかるというのが国税の見解でした。
「ATMで入金すると入金手数料がかかる」という考え方は広く受け入れられず、顧客へ転嫁することは困難である、と判断した銀行により、「印紙税額をいかに削減するか」という観点で検討がはじまったわけです。

 

まず、カード単体での入金を行う顧客に対して、予めレシートを閉じるためのフォルダである「ATM用通帳」*2を発行する銀行が出てきました。
入金毎に入金金額の記載されたレシートは発行される*3が、それは通帳の1ページであり、レシート単体では課税対象にあたらないという解釈*4です。
なお、この方式では、ATMから出力されたレシートを、ページ番号順に、顧客が自らファイルする必要があります。レシートの左に穴が開いている銀行があるのはそのためです。

 

その後、考案されたのが、最終残高記載方式で、ここ20年程のスタンダードとなっています。
最終残高記載方式は、「入金取引後に残高がいくらになったか」を記載する方式で、レシートには銀行が受け取った金額は記載されていないため、印紙税の課税文書には該当しません。
また、顧客も最終残高を知ることで、間接的に入金を受け付けたことの証拠になります。

 

さらに、最近では、入金にかぎらず、残高照会や引き出しの際にもレシート自体の発行を選択できる銀行が増えてきました。
これは、印紙税削減というよりも、用紙そのものや補充作業にかかるコスト、セキュリティ上の課題*5を解決するためのものと言えるでしょう。

というわけで、セブン銀行は、他の銀行が昔からやっていることをやっているだけで、セブン銀行だけがすごいわけではありません。

 

セブン銀行が本当にすごいところ

セブン銀行の2014年3月期の単体経常収益は約1000億円ですが、そのうち95%は、提携銀行から受け取るATM手数料です。
つまり、セブン銀行は銀行でありながら、他の銀行からのATM手数料で稼いでいる*6わけです。

 

ATMの運用には機械の減価償却や警備費用、回線費用や電気代など、様々なコストがかかりますが、銀行が最も意識しているのは「ATMに入れておく現金」の最適化です。
ATMに入れるお金が多すぎると、現金を遊ばせていることになります。そのお金を運用にあてていればその分稼げるわけです。
かといって、ATMに入れるお金が少なすぎると、こまめに補充に行く人員のコストもかかりますし、現金切れが起きれば顧客サービスの低下につながります。

 

セブン銀行の収益基盤がATM手数料である以上、現金切れによるATM停止は即収益減につながります。また、現金の量を必要最低限にできれば、調達が必要な現金を減らすことができます。
そういえば、セブン銀行のATMが止まっているところはほとんど見たことがありません。


ATM内の現金は「商品」であり、その在庫を常に最適化できていることが、セブン銀行のすごいところでしょう。

 

以上、オッサンの昔話でした。

*1:この記事では話をわかりやすくするため、「レシート様の紙片 = レシート」として用語統一しています。

*2:銀行によって呼び名は異なる

*3:当時はインパクトプリンタでレシートを印字している機種がまだ多く、複写用紙で顧客用と銀行用控えを作成していたため、レシートの要否を選択させることが技術的に難しかった

*4:印紙税法基本通達 別表 第1 第18号

*5:ATMコーナーにゴミ箱を設置しないところが多い

*6:一般的な銀行は、融資と預金の金利差による利ざやが主な収入源です。