TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に図書館の運営を委託し、館内にスターバックスを設置するなどで話題となっている佐賀県の武雄市図書館。
リニューアルオープンから1年間の来館者数や貸出冊数などが発表されました。
その発表を伝える記事の中に、興味深い数字がありました。
図書館のリニューアルオープンによる経済効果を、武雄市は20億円と試算しているというのです。
武雄市は市外からの来客増で経済効果が約20億円あったと試算している。
武雄市図書館、民間委託で利用者3.6倍 改装1年
http://www.nikkei.com/article/DGXNASJC01031_R00C14A4ACY000/
日本経済新聞 (2014/4/2 2:08)
来館者と観光動態調査で使う日帰りの消費額をもとに市が算出した経済効果は20億円、東京キー局の民放テレビ局で放映された番組を代理店が広告に換算した効果は16億円。
来館者3.6倍 武雄市図書館民間委託1年
http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.2655931.article.html
佐賀新聞 (2014年04月02日)
図書館は年中無休で、開館時間は午前9時~午後9時。館内には、大手コーヒーチェーンが出店し、読書しながら飲食できる。発表によると、貸し出しの利用者も倍増して約17万人。市の担当者は「長く滞在して本を読む人が増えた」とし、地元への経済効果を約20億円と見込んでいる。
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2014040101040
時事通信 (2014/04/01-18:30)
佐賀県の武雄市図書館は1日、レンタルソフト大手TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に運営を委託してから1年を迎えた。年間入館者は市直営時代の3・6倍に当たる92万3036人に達し、市は約20億円の経済効果があったとの試算を発表した。5月の大型連休中にも100万人を突破する見通し。
武雄市図書館が新装1周年 入館者92万3036人、経済効果20億円
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/79499
西日本新聞 2014年04月01日
また、武雄市議会においても、経済効果は20億円を超え、それとは別に広告効果が16億円あると発言されています。
(樋渡市長) まず、武雄市図書館についてであります。ゴールデンウィーク期間中の去る5月5日、昨年4月1日のリニューアルオープンから約1年間で、入館者100 万人を突破いたしました。当初の私たちの予想を大幅に超えるスピードで、旭山動物園、金沢21世紀美術館と並ぶ、奇跡の公共施設の仲間入りができたと認識をしております。
この間の武雄市図書館のリニューアルによる経済効果は20億円超であります。また、これとは別に武雄市図書館がテレビや新聞、雑誌などさまざまなメディアで取り上げられた広告効果は16億円と試算されています。
図書館が生む経済効果と言われてもピンと来ない部分もありますが、地元経済が潤っているのであれば歓迎すべき話なのでしょう。
経済効果の算出方法は?
新聞各紙の記事を総合すると、武雄市は以下のような条件で経済効果を算出したようです。
また、図書館の指定管理者であるCCCからは以下の数値が発表されています。
- 来館者数(累計)
- 図書貸出数(累計)
- 居住地別の貸し出し利用者割合(市内/市外/県外)
- 貸し出し利用登録者割合(カード種別,居住地)
武雄市図書館・歴史資料館 開館1周年 年間来館者数92.3万人、貸出冊数54.5万冊に
http://www.ccc.co.jp/news/2014/20140401_004462.html
2014年04月01日
佐賀新聞の記事からは経済効果を「来館者数」と「日帰りの消費額」から算出していること、日経の記事からは「市外からの来館者を経済効果算出の対象としている」ことが読み取れますので、以下の式で求めていると推測しました。
一人あたりの消費額
佐賀新聞の記事によると、武雄市は「観光動態調査で使う日帰りの消費額」を利用して経済効果を算出していることがわかりました。
観光動態調査は標準化されおり、各県の数値は4半期ごとに公開されていますので、観光入込客1人の1回の旅行における観光消費額を指す「観光消費額単価」の最新の数値を確認してみます。
佐賀県の観光消費額単価 *1 平成25年7-9月期 (単位:円/人回)
県内 | 県外 | ||
宿泊 | 日帰り | 宿泊 | 日帰り |
16,977 | 3,123 | 25,303 | 5,567 |
佐賀県における日帰りの消費額は、直近の数値で、県内居住者で3,123円、県外居住者で5,567円でした。
武雄市外からの年間来館者数は
CCCが発表している年間の来館者数は、92万3036人です。
図書館の建物に入ったすべての人を機械的にカウントすることは可能ですが、その来館者がどこから来たのかを把握することは困難でしょう。
しかし、武雄市は何らかの形で「市外からの来館者数」を求めているようです。
来館者数以外に居住地の属性が公開されているデータとしては、「居住地別の貸出利用者割合」と「貸出利用登録者割合」があります。
「累計入館者数」との相関がありそうな「居住地別の貸出利用者割合」を見てみましょう。
図書館の居住地別、貸し出し利用者割合(2014年3月31日時点)*2
居住地 | 市内居住者 | 市外居住者 | 県外居住者 |
利用者割合 | 56.4% | 32.0% | 11.6% |
この数値を採用して「来館者の約45%にあたる 約40万人が武雄市外からの利用者」と強引に推定しました。
武雄市図書館の経済効果は
では、数値が揃ったところで計算してみます。
比率(推定) | 来館者数(推定) | 消費額単価 | 経済効果(推定) | |
佐賀県内からの来館 | 32.0% | 29万5372人 | 3,123円 | 11億4200万円 |
佐賀県外からの来館 | 11.6% | 10万7072人 | 5,567円 | 9億2400万円 |
市外からの来館合計 | 43.6% | 40万2444人 | 20億6600万円 |
武雄市外からの来館者による経済効果は、武雄市の算定した数値とほぼ同じ、20億6600万円となりました。
武雄市内はどうなっている
公表されている数字を使って強引に試算しただけで、かなり近い数字が出てきてしまいました。
もしかしたら、武雄市職員さんの計算式をズバリ当ててしまったのかも! といいたいところですが、ここで別の角度からも検証してみます。
武雄市図書館の貸出登録者は、約3万4千人で、65%は武雄市外在住者です。
図書館の(貸し出し)利用登録者状況(2014年3月31日時点)
市内 | 市外 | |
居住地 | 35.1% | 64.9% |
登録者数=34,349人
武雄市の人口5万人のうち、図書館貸出登録をしている人は、約25%にあたる約1万2千人です。
また、市外からの来館者と同じ計算式で武雄市内からの来館者を求めると、年間52万人となります。
そうすると、
貸出登録をしている人だけが図書館に行っていると仮定した場合で、登録者全員が年43回以上、武雄市図書館に行っている。
最大母数である武雄市民全員が図書館に行っていると仮定した場合でも、全武雄市民が年に10回以上図書館に行っている。
という計算になりますので、かなり不自然な数値に見えます。
公開されている情報から「20億の経済効果」に近い数値を導き出すことはできたものの、それを別の角度から検証してみると不自然な結果に終わりました。
もし、武雄市が「入館者数×日帰り消費額」で求めたのであれば、武雄市の発表している経済効果20億円は、極めて信ぴょう性が薄いといえるでしょう。
武雄市はどのような方法で、経済効果を20億円と算定したのか、ぜひ公開してほしいと思います。
ところで、ここまで計算した経済効果は、机上での計算にすぎません。
大切なのは、実際に武雄市内に20億円の経済効果が生まれたかどうかでしょう。
20億円の経済効果を、武雄市民の皆さんは体感できているのでしょうか。