通称「ツタヤ図書館」は、レンタルビデオ大手のTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下CCC)が運営する公立図書館の通称*1である。
2013年4月には佐賀県武雄市、2015年10月には神奈川県海老名市にオープンし、2016年3月にオープンした宮城県多賀城市が3館目となる。
多賀城市立図書館より引用
CCCが公立図書館を運営する仕組みとして、地方公共団体が民間企業に公の施設の運営を代行させることができる「指定管理者制度」が使われている。
公立図書館が指定管理者制度で運営される事例は数多く存在しており、それ自体は珍しい事ではない。
ではなぜツタヤ図書館が注目されるのか。
それは、奇抜な図書分類やずさんな選書など図書館運営能力が疑問視されていることもあるが、書籍販売やレンタル、スターバックスコーヒーの設置など、CCCの本業と一体化した図書館運営が注目されているのだ。
なぜ公共施設内でTSUTAYAやスタバを営業できるのか
指定管理者であるCCCが委任されているのは、あくまでも公立図書館の運営である。
では、なぜ公共施設である図書館の中で、蔦屋書店やスターバックスコーヒーの営業が大々的にできるのかというと、自治体から「行政財産の目的外利用」の許可*2を得ているからである。
ツタヤ図書館は、図書館部分は「指定管理者制度」書店やカフェは「行政財産の目的外利用」として、同じ事業者*3に運営させることで実現されているのだ。
ツタヤ図書館の問題点
武雄市図書館や海老名市立図書館では、指定管理業務と民業が同じ事業者で行われ、エリアや人員も明確に区分されていない。
そのため、計画発表当初から以下の様な指摘がなされている。
- 蔦屋書店とスターバックスが建物の入口部分に相当な面積で配置されている。図書館運営よりも書店の営業が重視されているのではないか。
- スタッフが図書館業務と書店業務の両方に従事している。書店業務の経費を税金で支払っていることになるのではないか。
- 蔦屋書店とスターバックスコーヒーの来店客も図書館入館者としてカウントしている。伸び率などを示す評価指標として不適切ではないか。
ツタヤ図書館3館目となる多賀城市立図書館では、書店とレンタル、スターバックスコーヒーに加え、レストランとコンビニまで併設されており、より一層民業部分に注力しているように見える。
しかし、多賀城市立図書館は、従来のツタヤ図書館とは全く違う運営形態を取っている。
図書館に偶然隣接している蔦屋書店
多賀城市立図書館は、多賀城駅北地区第一種市街地再開発事業で建てられた再開発ビルのA棟に入居しているが、その全体を占めている訳ではない。
「多賀城市立図書館」は、吹き抜けを挟んだ南側の三角屋根部分で、蔦屋書店やスターバックス、レストランやコンビニは「商業エリア」となっている。
多賀城市/広報多賀城 2015年11月号より引用
また、CCCも取材に対し「ゾーニングをはっきりとさせた」と述べている。
入館すると必ず蔦屋書店のフロアは通過しなければならないが、図書館ゾーンに一度入れば、館内では商業ゾーンに足を踏み入れることはない。武雄市や海老名市では、商業ゾーンと図書館ゾーンの区分が不明瞭だという批判があったが、多賀城市では「ゾーニングをはっきりとさせた」(CCC広報)という。
ハフィントン・ポスト 3館目の「TSUTAYA図書館」が多賀城市にオープン 武雄市や海老名市との違いは? より引用
なぜこうなっているのか。
実はこの建物、中央の吹き抜け部分を境界に区画が分かれており、図書館部分と商業エリア部分の区分所有者も別なのだ。
つまり、多賀城ツタヤ図書館の民業部分は「公共施設の目的外利用」ではなく、純粋な商業施設であり「偶然図書館に隣接している蔦屋書店」にすぎないのだ。
商業施設であれば、蔦屋書店もCCC直営である必要はなく*4、地元のTSUTAYAフランチャイジー*5が運営している他、レストランやコンビニも入居している。
しかし、館内の内装やサインは統一され、建物の入り口も民業エリア側のみに用意されているなど、一般の利用者がこのような運用になっていることを知ることは困難な設計になっている。
利用者から見れば、多賀城市立図書館は武雄市や海老名市のツタヤ図書館と何ら変わらないだろう。
多賀城市立図書館は「量産型ツタヤ図書館」
多賀城方式のツタヤ図書館は、CCCにとってのメリットが多い。
民営部分の運営は自由であり、自治体も関与しないため情報開示請求に対応する必要もない。
全国のTSUTAYAはほとんどがフランチャイズであり、各地のフランチャイジーとともに成長してきた歴史がある。
今後、多賀城方式のツタヤ図書館を「量産型ツタヤ図書館」としてモデル化し、全国展開していくのではないだろうか。
「偶然」は続くのか
2013年11月に多賀城市教育委員会の策定した、多賀城市立図書館移転計画 にはこう記載されている。
市立図書館が移転する再開発ビル内には、「本」と「文化」を通じて新たなライフスタイルの提供と実践を生業とする事業者が経営する書店の出店が計画されています。
本計画書で示している市立図書館が目指す、「利用者視点によるサービスの向上」、「誰もが行きたくなる環境づくり」、「居心地のよい空間と雰囲気づくり」の実現に向けては、同再開発ビル内に出店予定の事業者が有する実績とノウハウを活用することで市民へのサービスは質・量ともに向上し、また、合理的な運営が期待できることから、同事業者を指定管理者の候補者として今後の手続き等を進めてまいります。
多賀城市立図書館移転計画(PDF)より引用
多賀城市教育委員会が移転先に選んだ再開発ビルに、偶然「多賀城市教育委員会が目指す図書館」を実現できる実績とノウハウを持っている蔦屋書店の出店計画があった。
そんな「偶然」で生まれたのが、多賀城のツタヤ図書館という事のようだ。
「偶然」といえば、武雄市の樋渡前市長もそうだった。
「増田さん、武雄市で図書館、やりませんか?」
代官山蔦屋に足を運んだら、なんと偶然、増田宗昭社長とばったり出会った。これはチャンスだ、とばかりに「増田さん、武雄市で図書館、やりませんか?」と声をかけたんです。
business.nikkeibp.co.jp
「うちの街の図書館の運営をお任せしたい」
樋渡は近づいた。そして自己紹介もそこそこ、単刀直入に切り出した。
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「武雄市長の樋渡です。私共の図書館をぜひ増田社長にお願いしたいと思っています」
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なかなかアポイントが取れなかったCCCの増田社長に、路上で「偶然」出会ってその場で了承を取ったのが武雄市図書館の始まりだそうだ。
かけた言葉は上記の通り数パターン存在する*6が、そんなドラマのような「偶然」があったらしい。
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週刊朝日によると、指定管理者決定の1年前にあたる2013年7月の時点で、多賀城市とCCCがツタヤ図書館オープンに向けた定例会を行っていたにもかかわらず、その打ち合わせ資料の存在を隠蔽していたと報じられている。
ツタヤ図書館は、全国各地で「偶然」を重ねていくことができるのだろうか。
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